「老後2000万円」問題と金融ジェロントロジー

老後2000万円問題

金融庁の報告で最近話題になっている、いわゆる「老後2000万円」問題、最初はこんなに長引くとは思いませんでした。あっちでもこっちでも取り上げられて、参院選でも争点のひとつになりそうですね。おかげでこれまであまり意識していなかった人まで年金について調べるようになったのは良いことだと思います。

金融庁はとくに目新しいことは言っていない。金融庁の報告書を読んで再考してほしいという経済コラムニストの大江英樹氏(弊社NextStoryのアドバイザリー顧問をお願いしています)の東洋経済の記事を読んで、あらためて報告書を読んでみました。

金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」 (令和元年6月3日)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

「重要なことは、長寿化の進展も踏まえて、年齢別、男女別の平均余命などを参考にしたうえで、老後の生活において公的年金以外で賄わなければいけない金額がどの程度になるか、考えてみることである。」

「こうした状況を踏まえ、今後は年金受給額を含めて自分自身の状況を「見える化」して、自らの望む生活水準に照らして必要となる資産や収入が足りないと思われるのであれば、各々の状況に応じて、就労継続の模索、自らの支出の再点検・削減、そして保有する資産を活用した資産形成・運用といった「自助」の充実を行っていく必要があるといえる。 」

お金の話だけでなく、近年、認知症の人の増加(正常なもの忘れよりも記憶などの能力が低下している状態と言われるいわゆる軽度の認知症も含む)が顕著だということも論じられています。

「さらに、今後の高齢化と相まって、2025 年には認知症の人は約 700 万人前後まで増加すると推計され、これは 65 歳以上の約5人に1人が該当することになる。」

そのため、成年後見人制度など高齢者の資産管理が課題になっていることにも触れています。

「個人の金融資産の大半を高齢者が保有する状況に鑑みれば、同制度の利用増加に伴い、同制度の枠組みに入る金融資産が大きく増加していくことが想定される中、これらをどう管理していくかは重要な課題の一つと言える。」

そして、個々人が自分の将来を「自分ごと」として捉え、考えることの必要性をうたっています。

「これを見据えて、今何ができるか、何をすべきか。標準的なモデルが空洞化しつつある以上、唯一の正解は存在せず、各人の置かれた状況やライフプランによって、取るべき行動は変わってくる。今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく今現在において必要なこと、「自分ごと」として捉え、考えられるかが重要であり、これは早ければ早いほど望ましい。」

これは正に私が「女性のためのセカンドキャリア研修」で皆さんにお伝えしていることです。

私は以前から、老後にいくら必要という話には懐疑的でした。

私よりもずっと優雅に暮らしている人、逆に無駄のないつつましい生活をしている人など生活の仕方は人それぞれで、それこそ世帯の数だけ暮らし方があるわけで、1ヶ月の生活費に充てるお金なんか、本当に人のことはわからない。あるのは「平均的な家庭では・・・」という統計データだけ。

昔、子供の頃、ぎりぎりまで切り詰めた生活をして数年に一度海外に遊びに行っているという人が近所にいました。今から半世紀ほど前の日本、ちょくちょく海外へ遊びに行ける人なんてそう多くはない時代でした。その人の生活ぶりは子供の目にも豊かとは思えず、海外旅行なんてお金持ちのすることで自分には無理と言う別の人の方がはるかに豊かに暮らしているように見えました。

「老後に向けて2000万円自分で貯めろというのか!」という議論は、何を今さら言っているのだろうかと思います。基礎年金が満額でも月々6万くらいしかないということは、ちょっと調べればわかること。

だから、自分が何にいくら使っているのか、これからいくらかかるのかを知るのは本当に大事な事だと思います。人生百年時代、100歳まで生きるのが現実的になってきました。女性だったらせめて90歳までは生きていると仮定して、自分のお金が足りるのだろうかと試算してみることが大事です。

金融庁の報告書は、政府の出す文書にしては平易な言葉でわかりやすく書かれています。「不安を煽る」と見なかったことにするのではなく、冷静にひとつの参考資料として一度読んでみることをお勧めします。

出典:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」 (令和元年6月3日)

注:金融ジェロントロジー
高齢者の経済活動、資産選択など、長寿・加齢によって発生する経済課題を、経済学を中心に関連する研究分野と連携して、分析研究し、 課題の解決策を見つけ出す新しい研究領域のこと(ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター)