学問をベースに早期退職後は次のステージにチャレンジ

先輩インタビュー:0005 起業:キャリアコンサルタント

大橋 重子(おおはし しげこ)さん

キャリアデザイン支援 アイディールジャパン 代表

■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。 

キャリアコンサルタントとして、主に大学生のキャリアの授業に関わる仕事をしています。学生向けのキャリアと言うと、かつては進路指導が中心でしたが、今はそれだけではなく、例えば、「なぜコミュニケーションが必要なのか?」や「タイムマネジメント」など、自分の人生のキャリアを考える「キャリアデザイン」と呼ばれる授業が1年生のときからあり、そういった学生向けの授業のお手伝いをしています。また、社会人を対象とした研修や、自治体などが主催する求職者向けの研修講師もしています。

■ 退職前はどんな仕事をされていましたか?

大学卒業後は総合商社に6年ほど勤務し、その後、外資系のいくつかの企業でロジスティクスやマーケティングに従事しました。最後の会社ではマーケティング・コミュニケーションを担当していました。

■ 仕事を辞めたのはいつですか?

40台半ばでした。

■安定した収入を捨てた理由は?

約20年働いたので、残り20年、今のところでこのまま働いていて楽しいのだろうかと考えました。これまでは縦のキャリア(キャリアアップ)をめざして働いてきたけれど、それが本当に自分のやりたいことなのか?と自問自答した結果です。ちょうど、20年たったので、「今なら動ける!新しいことにチャレンジするなら今だ!」と決心しました。当面の経済的な足かせがないということも決断できた理由だったと思います。

■ なぜ、今の道を選んだのでしょうか?

前職の外資系企業で管理職の立場でしたが、当時の私はどちらかと言うと「ついてこい!」型のリーダーで、部下の悩みを聞くのが正直言って苦手でした。部下のマネージメントで悩み、人材組織マネージメントを勉強しようと、仕事の傍ら、平日の夜と土日を利用して社会人向けの修士コースで学んでMBAを取得しました。

その後、働きながら勉強するリズムができていたので、何か勉強をしなくてはと、週末資格の学校に通い、キャリアコンサルタントの資格を取得したのですが、キャリアの勉強をしているうちに、「頑張って上をめざす」以外の生き方があるということ、これを知ったらもっと楽になるのに、と自分自身でも気づき、こういった多様な働き方について多くの方々に伝えたいと思ったからです。

■ セカンドキャリアの準備を始めたのはいつ頃ですか? 考え始めたのはいつ? 

きっかけは修士コースでした。最終的に会社を辞める3年ほど前でしょうか。当時はセカンドキャリアの準備をするという意識ではありませんでしたが、結果、準備につながりました。その後のキャリアコンサルタントの資格取得は学校に通いましたが、国家試験は退職後に独学で取得しました。

■ これまでに試行錯誤した時はありましたか? 仕事を辞めて感じたことは?

それまで、社会人として経験を積んできたと思っていましたが、実際にはサラリーマンとして狭い世界しか知らなかったんだと感じました。ひとりの個人として見えていなかった部分があって、それが見えてきて驚きました。世の中には様々な人がいて、多様な考えをもった人達もいっぱいいるということを改めて知りました。

退職して、自分で仕事を始めたときに、いろいろな方から勉強会などのお誘いがあり、当時は情報収集しようと声をかけられれば素直に参加していましたが、実際には個人でやろうという人を助けるという名のもとに利用しようという人たちが大勢いました。仕事が目的ではなく声をかけてくる人など、世の中の知らなかったところを見た想いでした。

■ 今、抱えている問題は?

自分自身の実務経験とは別の核になるものが必要で、それが自信にもなり、周囲との差別化にもなると感じました。もっとちゃんと勉強したいと思い、今、経営学のドクターコースに通っています。ただ、私はもともとコツコツやるのが苦手で、これまではチームで仕事をしてきて、修士時代もワイワイと周囲と議論しながらだったのが、学びなおしのプロセスは「孤独」だと感じることが多く、強いて言えば、これが今直面している問題です。

■ 今の生活に満足していますか?

企業で働いていたとき、広報やCSRなどの業務にも携わりましたが、社会貢献と言っても、どうしても会社のプレゼンスを上げることが最終的に求められ、震災のときなどは心苦しい想いがありました。また、会社員時代は自分のスキルアップに時間がとられボランティアをする精神的な余裕もありませんでした。

今は全部自分の責任のもとでコントロールできます。社会貢献というと大げさですが、ボランティアとして活動する時間も作っています。自分の身体を動かし、汗をかいて、やったことの成果がすべて自分にかえってくる。そういうことに挑戦できる環境にあることが心地好く、後悔はありません。

■ 後輩にアドバイスするとしたら?

スパっと会社を辞めてしまうのではなく、同時進行で行動してみる。まず、何かやってみるのが大事です。小さなことでもいいので、やってみると取っ掛かりが見えてきます。悩んでいるだけでなく、やってみると世界が変わってきます。
人間の「認知」というものは、「行動」することによって置きかわり「理由」は後付けになるとも言われています。まずは少し動いてみる。リスクはあるので、興味が持て、いけそうだと思ったら前進することをお勧めします。

■ 今後の展望についてお聞かせください。

今の目標はドクターの学位をとることです。ドクターコースでは「組織行動論」に関連した研究をしています。特に「個人から見た組織との関係性」に興味を持ち取り組んでいます。会社組織のなかで抱いていた問題意識が、学問の世界で研究され、知見が沢山示されています。実務経験があるからこそたいへん興味深く、またその経験が研究にも活かせると考え、2020年のオリンピックの頃までに学位をとることを目指しています。

■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?なぜ、働いているのでしょうか?

社会の中で人間はひとりでは生きていけないものです。つながりの「場」を持つことが必要で、働きながら、自分自身のアイデンティティ・・・どういうことが好きで、どういう人間なのか・・・が見え、また世の中が見えてくるものです。

大学卒業後に総合商社に就職したのは、まさに大企業志向、条件面に惹かれたことが理由でしたが、お金持ちになりたいとか偉くなりたいということは、私にとって働くことのモチベーションではないということが、働いてみてわかりました。
何か新しいことにチャレンジするのが好きです。これまでを振り返っても、新しいことを立ち上げてルーチンになったら誰かに渡すことをしてきたように思います。

「ピュアチャレンジ」・・・常に新しいことにチャレンジしていたい、それが、私にとって「働く」ということなどだと思っています。

キャリアデザイン支援のアイディールジャパンのWebサイトはこちら
http://www.ideal-japan.jp/

■ 編集後記

きちんとした理論の上にキャリアデザインを支援したいと語る大橋さんは、学究肌であり、かつチャレンジャーという、異なる資質の両方を持ち合わせているような方でした。もともと、何かを学ぶことが好きな方のようですが、その学びを単に学んで終わりにせずに、ご自身のキャリアの土台にしていく、セカンドキャリアの準備として学び始めたわけではなかった学問が、結果、ご自身のキャリアに結びついていく、キャリアデザインの見本のように感じました。また、お話しの端々に登場する単語が専門家を感じさせ、ゆくゆくは学問の世界で生きていきたいという言葉が納得できるものでした。組織の現場でのご自身の経験と、コンサルタントとしてクライアントの悩みに向き合った経験に、学術的な理論が組み合わさって、将来はきっと立派な学者になられるだろうなと思いました。(2018年3月22日)