「あなたが歩んできた道の延⻑線上に、これからの答えがある」

先輩インタビュー:0024 起業:⽀援する⼈を⽀援する
⾼橋 寛⼦(たかはし ひろこ)さん
NextStoryセカンドキャリア研修第13期受講生
■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。
「こころのケア・オフィス Be present」という個⼈事業を⽴ち上げて、これまで培ってきた経験を、新たな形で社会に還元するために、⼼理職・⽀援職の⽅へのスーパーヴィジョン・⼼理カウンセリングを⾏なっています。「Be present」という⾔葉は、「今ここに、共にある」という意味です。“今ここで”感じていることを、安⼼して語ることのできる場を提供したいという想いを込めています。
⼤切にしたいのは、「Support for Supporters(⽀援者を⽀援する)」という視点です。⼼理職や看護・福祉の現場でケアを担う⽅々、組織を⽀える管理職やリーダーたち……誰かを⽀える⽴場にいる⽅たちは、実はご⾃⾝のことを後回しにし、迷いを抱えながら疲弊していることも多いのです。
⽀援することは、誰かを導くことではなく、その⼈と共に歩み続けることなのだと、⻑年の臨床を通して感じています。向き合っている困難なケースに⾒通しや少しでも希望が⾒出せることで、「誰かを⽀える⽅々」の⼼が元気になることは⼤切だと思うのです。
⽀えを提供する⽅たちの背景に、何⼗⼈もの⽀えられている⼈々がいるからです。⽀援者が、荷を下ろして⾃分を取り戻し、感じたり⾒⽴てたり、⾒通しが⽴てられるよう⼀緒に考えることのできる「専⾨的で安全な場」を提供したいと思って、今の仕事を始めました。

■ 前職ではどんなお仕事をされていましたか?
⻑年、学⽣相談室や⼼理療法の現場で⼼理⼠として多くの⽅のこころの悩みに寄り添い、ここ10数年は、⼤学・⼤学院で臨床⼼理学の教員として教育や研究、⼼理職を⽬指す⽅々の養成や指導に携わっていました。
私は、「男⼥雇⽤機会均等法」の第1世代なんです。40年以上正社員・常勤職として働き続けてきたのですが、当時は今ほど「⼥性が働き続ける環境」はまったく整っていませんでしたから、⼦育てや親の介護、家族のケアなどに悩みながら、その時その時を乗り越えることに必死でした(笑)。葛藤はありましたが、仕事を辞めようと思ったことはなくて、「どうやって両⽴しよう…」と考えていたように思います。振り返ってみると、私が学んで働き続けてきたこと、実⽣活で直⾯した困難なこと、すべてが回り回って⼼理職や⼤学での教育・研究においても⼟台になっていたように思います。
■ 前職を辞めたのはいつですか︖
定年のタイミングで、組織の⼀員という⽴場を離れました。⻑年の組織⼈としての⽣活に区切りをつけた形です。
■ セカンドキャリアのためにどんな準備をされましたか︖
「これからの⾃分の⽣き⽅を⾒つけたい」という⼀⼼で、Next Storyのセカンドキャリア研修に⾶び込みましたが、これが、本当に新たなキャリアへの⼤きな転機になったんです。
実は定年が近づくにつれて、得体の知れない不安に襲われていました。組織で働き続けてきたので、そこから外れる⽣活が想像できなかったのだと思います。管理職という重荷から離れられることを待ち遠しく思う気持ちと、反対に「社会から必要とされなくなるのでは︖」という、取り残されるような味わったことのない不安定な気持ちだったんです。そんな時に、偶然新聞記事でこの研修を知って、直感的に「受けたい︕」とすぐに申し込みました。直感を信じて動いたことは⼤正解でした。
研修で取り組んだことは、⻑年の実践の中で抱えてきた問いを、どのように次の段階へつなげる試みとして形にできるか、ということでした。
いちばん救われたのは、「これまでの経験の蓄積の中に、⼗分すぎるほどの宝物を持っている」ことに気づかせていただいたことです。40年以上働き続けてきたこと、仕事で悩んだこと、⼦育てや家族のケア・介護の体験も、全部、今とこれからの道に繋がっていたんだ、と腑に落ちたんです。
⾃分が⽣きてきた歴史や経験の中にあるものを、丁寧に「発掘」していくような作業でした。同じような思いを抱えている⼥性の⽅たちと出会い、これまでと今とこれからを互いに⾒つめ直す時間の中で、不安や焦りがスーッと溶け、「これから私は何をしていきたいのか︖」という実践の延⻑線上にある問いの先に新たな役割が⾒え始め、⾃分で確かなものを⾒つけ出したという感覚が鮮明に残っています。
この研修で、講師の⽅々、企業の第⼀線で活躍されているきわめて有能で素敵な⼥性の仲間の⽅々と出会えたこと、年齢も住む地域もそれぞれですが、温かく刺激を与え合う友⼈としての関係が始まり、今も続いていることに⼼から感謝しています。
■ なぜ、今の道を選んだのでしょうか?
⾃分の歩んできた道、努⼒してきたこと、体験してきたことすべてが⼤切なものと感じられ、「私は、これからも誰かの役に⽴ちたい」と確信できたからです。新しく何かを⽬指すのではなく、⾃分が積み上げてきたこと、体験してきたこと、やりがいを感じている「⼼理臨床とスーパーヴィジョン」という道の延⻑線上に、「Support for Supporters(⽀援者のための⽀援)」という⾃分のやりたいことがあると気づけたことが⼤きかったと思います。
■ 収⼊に不安はありませんでしたか︖
収⼊云々よりも当初は、「開業するからには集客しなきゃ」「SNSで発信しないとダメなのでは︖」という思い込みがあり、そのことで不安や焦りを感じていました。組織にいて知らず知らずのうちにそのような思考法をしていたのだろうと思うのですが(笑)。でも、ふと気づいたんですよね。定年後のキャリアで本当に⼤切なことは、右肩上がりの売上や数字を追うことではなく、「⾃分がどのように⼈と関わり、誰かや何かの役に⽴っていくことなのでは︖」って。
そこから“呪縛”は吹っとんで、スッキリと⾃由になれました。苦⼿なSNSでのアピールもやめて、これまで出会ってきた⽅々との信頼関係を⼤切にしていこうと思ったんです。不思議なもので、「⾼橋さんにお願いしたくて」「紹介したい⽅がいるのだけれど」と、知⼈や同業者からお声がけをいただき、そういうご縁が⾃然に次々と繋がるようになっていきました。
■ これまでに試行錯誤や苦労した時はありましたか? 今、抱えている問題などあれば教えてください。
⼀番苦しかったのは、定年前の「無⼒感」に襲われていた頃かも知れませんね。馴染んだ組織(私の場合は⼤学)という居場所がなくなる不安は、想像以上に⼤きかったです。それは、⾃分が組織にずいぶん依存して⽣きてきたのだなあ、と気づくことでもあったし、「定年前ってこんな不安定になるものなんだ…」と⾝をもって知ることでもありました。⾒送ってきた先輩の⽅たちの顔が浮かびました。「ああ、こういう気持ちでいたんだ」って初めて気づいて。そのような思いに気づけなかったことに、本当に申し訳ない気持ちにもなりました。
課題は、そうですね。今も、予定を詰め込みすぎそうになる⾃分にふと気づいて、ハッとすることがあります。これまでのように、⼨暇を惜しんで仕事や予定を⼊れすぎることを⾃戒するのが、今の私の最⼤の課題かも知れません(笑)。
■ 今の生活に満足されていますか?
はい、⼼から満⾜しています。⾃分がやりたいこと、やりがいがあり、⾃分が楽しんでできることに取り組むことができ、穏やかで満たされた気持ちです。
ライフスタイルに合わせて⾃分で時間を管理し、⼤切にしたいことを⽣活の中でコーディネートできているという⾃律感もあります。
今年の6月にはウィーンでの心理学の国際会議(第30回フォーカシング国際会議)にも参加して、世界各国の研究者・実践者とともに、感じ考え合う時間を過ごすこともできました。

■ 後輩にアドバイスするとしたら?
「どうか焦らないで︕あなたの中に、素晴らしい宝物が眠っていますよ」とお伝えしたいです。 仕事や⽇常の中で培ってきたすべての経験が、他の誰にも真似できない⼤切な「あなただけの資源(リソース)」です。外に何かを探す前に、⾃分の中を優しく丁寧にのぞいてみてください。そこに⼤切な何かが眠っているはずです。そっと触れて、掘り起こしてみてください。直感を信じて⼀歩を踏み出せば、あなたやあなたの経験を必要としている⼈が必ず待っていますよ。
■ 今後の展望についてお聞かせください。
「Support for Supporters(⽀援者の⽀援)」の輪を、じわじわと広げていきたいです。いつか私の中でまた新しい何かが加わっていくかもしれませんが、今はゆっくり進んでいるこのペースが⾃然で⼼地よいと感じています。

当⾯10年間を⽬標に、「⼼理臨床」と「実践経験を後進に⼿渡していく」というこの事業を細く⻑く継続し、⼀⼈ひとりと丁寧に向き合いながら、⼼と⼼が通い合う信頼と安⼼の輪を築いていけたらと考えています。
■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?なぜ、働いているのでしょうか?
私にとって働くことは、「⽣きていることそのもの」かもしれません。ガムシャラな働き⽅はもうしませんが、ゆっくり⾃分らしいペースで働き続けることは、息をするように⾃然で、私らしい⼈⽣を過ごすために不可⽋なことだと思っています。セカンドキャリアという新たなステージに⼊っても、社会とつながり続けることができることに「喜び」を感じています。だから、これからも私は、⾃分らしく働き続けていきたいと思っています。
■ 編集後記
「支援する人を支援する」と始めて高橋さんからお聞きしたとき、それまで考えたこともなかった発想に、なんて素敵だろうと思いました。支援する人はひとりでも、その先に何十人もの人がいると語る高橋さんがやろうとしていることは、今、とても必要なことだと改めて気づかされました。おだかやか口調で相手を包み込むような高橋さんには、きっと救われる人も多いだろうと思います。
高橋さんの「こころのケア・オフィス Be present」はこちら https://be-present.jp/
(2026年7月4日オンラインにて)
