自分の意志で仕事をつかんできたパイオニア、人生後半は「人を幸せにできる場所」を作りたいと経営者に転身

先輩インタビュー:0001 起業:カフェ経営

伊勢谷 圭了子(いせたに かよこ)さん

パソコン教室があるカフェ SevenStream 経営

■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。 

シニアや初心者を対象にした「カフェの中にあるパソコン教室」を主体に、イベントでのできるカフェを運営しています。

■ 退職前はどんなお仕事をされていましたか?

大手ICTメーカーで、SEとして従事した後、販売推進に異動。主として海外を担当して現地事務所に事務所長として駐在も経験しました。帰任後はソフトウェアの海外展開の責任者を経て、最後は海外も含めたグループ内全体のウェブシステムを総括する部門を担当しました。

■ 仕事を辞められたのはいつですか?      

56歳で「役職離任(定年)」になったのを機に辞めました。

■ 安定した収入を捨てた理由は? 前職では大手企業の中でかなりご活躍され、それなりに高収入を得ていたと思いますが、その安定した収入を捨てる決心をした理由は何だったのでしょうか?

結婚してからずっと家計は夫と別々だったため、自分の貯金や退職金、年金などを計算して、なんとか帳尻は合うと考えて決断しました。

今までの会社で沢山の経験ができ、多くのことを学ぶことができましたが、「もういいかな」という想いが強かったです。役職離任後、「補佐的な管理職」といった立場でまで残っていたいとは思いませんでした。

起業に際して夫からの経済的な援助はまったくありませんでしたが、夫に収入があることは、精神的な部分で安心につながる部分はありました。また、今のカフェの場所を借りる際には、夫の会社での立場が保証の一つの大きな要素にもなりました。世間はそのように見るのだとあらためて思いました。

余談ですが、会社を辞める前は外食しても別々に会計していたのが、会社を辞めたら夫がご馳走してくれるようになったのはラッキーです。(笑)

■ なぜ、その道を選んだのでしょうか? 

前職では、仕事がハードで心の病気になってしまう人も多く、そうでなくても皆ストレスを抱えていました。

そこで、「人が集まる場所」、「人が幸せになれる場所」、「人がほっとできる場所」を作りたいなと思い、その結果がカフェという形になりました。それでやっていけるの?とよく言われましたが、こうして10年続けて来れたということは、なんとかなったということだと思います。

カフェの開業に向けて事業計画を立てる中、カフェだけでは成り立たないとわかり、カフェに併設の形で自分の得意な分野であるパソコン教室も始めることにしました。

実際、運良くたいへん好立地の場所を見つけることができましたが、その分、固定費(家賃)が高く、カフェよりもパソコン教室によって経営が成り立っています。

パソコン教室の生徒さんたちも授業の後にはカフェで一息され生徒さん同士のつながりもでき、ある意味望んだかたちになってきています。

前職で、まだ若い入社3、4年目の頃(まだパソコンというものができる前のことですが)、コンピューターに縁のない人たちにコンピューターのことを知ってもらおうというプロジェクトで「暮らしの中のコンピュータ」という出版物まで作ったことがあります。

今考えると「コンピューターに縁のないと思っている人にこそコンピューターを知ってもらいたい」という想いが、その頃生まれたのだと思います。まさか自分が教えることが好きとは思いませんでしたが。今、生徒さんたちが喜んでくださっているのを見て私もとても楽しく感じています。

■ セカンドキャリアの準備を始めたのはいつ頃ですか? 考え始めたのは? 具体的に準備にどのくらいかかりましたか?

50歳になったときに自分は100歳まで生きると思い、半分たったことを意識しました。ちょうど仕事でも成果が出せずに苦しんでいた時で、もっと違うことをしなくてはと希望してこれまでとは違う部門に異動になりました。

その頃からぼんやり考えてはいましたが、具体的に先のことを考え始めたのは53歳くらいだったと思います。辞める2年前くらいですね。その頃から自分の関心のあることは何だろうかとモヤモヤしていました。

それから1年くらいたち、何か自分で始めたい!という想いが強くなりました。今後の選択肢を「起業」に決めたのがこの頃です。また、週末を使って、起業のための学校にも通い始めました。起業の学校で選んだのは、興味はあるけれど一番不得意な分野の「レストラン・カフェ開業コース」でした。ここに7か月ほど通いました。

実は料理は苦手で、忙しいのを理由に普段ほとんど料理をしてこなかったので、料理教室にも通いました。結局、コーヒーを飲むのが好きだったためカフェの経営に決めたのが辞める3か月前です。それから、おいしいコーヒーを淹れるため、やはり週末に、あるカフェで開業のための指導を受けました。

■ これまでに試行錯誤した時はありましたか?

試行錯誤という意味では、いろいろあります。最初は料理も出すカフェを考えていましたから・・・

それでも右往左往しながら結果的にはどれも無駄ではなく、進めて来れたような気がします。失敗したかなと思うのは、カフェの店舗の外装・内装に少しお金をかけすぎたかなというところです。もう少し節約すれば良かったかなとも思いますが、皆さまからは好評なので、結果オーライです。

■ 仕事を辞めて感じたことは?

まだ経営者というよりも趣味の範囲でやっているような形ですが、夢に向かって進んでいる感があります。

■ 今、抱えている問題(あるいは乗り越えた壁)は?      

やはり、もう少し収益をあげ、経営状態をよくしたいです。パソコン教室は生徒さんたちとのつながりがあり、とても楽しいのですが、ちょっとボランティア的なところもあるかな、と感じています。また、最近スタッフが介護で休むことがあり、今はまだ元気な自分の親に介護が必要になったときのことを考えて、心配になることもあります。

■ 今の生活に満足していますか?

パソコンなど情報機器は関係ない、苦手と思っていた方々が新しいことにチャレンジされるのを日々お手伝いすることに、喜びや幸せを感じる一方、まだまだやることはたくさん残っているので道半ばだと思っています。

先月、カフェをオープンしてから10年になったのですが、まだまだゴールは先にあり、10周年を祝う気にはなれませんでした。ただ、もちろん経営者としてのストレスはありますが、会社勤めの頃の上司と部下の間に入っての「中間管理職」としての「嫌なストレス」がない分、精神的にはとても良い状態です。

■ 後輩にアドバイスするとしたら?

とにかく人生どうなるかわかりません。興味のあることに首を突っ込んでみるといいと思います。気になったら調べてみたり、やってみたりすることは決して無駄にはなりません。

私の場合、パソコン教室の話を始めて聞きに行ったのは、まだ起業を決める2年前のモヤモヤしていた頃でした。その時はパソコン教室を開講しようとは思いませんでしたが、最終的にはそれが私の事業の柱になりました。

自分の中で、「楽しいな」「嬉しいな」と思えることを積極的に見つけていって欲しいと思います。

それから経済的なことは大事なので、1歩踏み出す時にはしっかり計画してください。計画してもそのとおりになるとは限りませんが、まずはしっかり考えることが大事です。私の場合、事業計画の中でシミュレーションしてみて、カフェだけでは無理とわかったのですから・・・

■ 今後の展望についてお聞かせください。       

パソコン教室の生徒さん同士で仲良くなっています。この輪をもっと広げていきたいと思っています。

いろいろな人が集まり、それぞれの趣味をお披露目する「場」として、このカフェを提供していけたらと考えています。

■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?なぜ、働いているのでしょうか?

会社にいるときは、「働く」ということは「自己実現」だと思っていて、生きている限り何かを成し遂げたいと思ってきました。

今はそこまで肩ひじ張ってはいなくて、もっと自然体で単に「仕事が好きだから」と言うことができます。仕事が好きだから、仕事をしながらずっと走り続けていきたいと思います。

また、ただ単に自分のためだけに生きているのはむなしいのではないかとも思うようになりました。今、人の喜びが自分の喜びに感じます。今の時代、パソコンやスマホなど情報機器が使えるのと使えないのとではその差は大きく、生徒さんたちの嬉しそうな顔を見ていると、大げさですが生徒さんたちの人生の手助けをしているように感じています。

パソコン教室があるカフェ SevenStream のWebサイトはこちら

http://www.sevenstream.jp/

■ 編集後記

ここには書ききれませんでしたが、前職でも次々と前例のないことに「私がやります!」と自ら手をあげ道を切り開いてこられた方。海外の駐在員事務所で一国一城の主を経験したことが、定年後の「起業」に結びついたのではないかと感じました。

進歩が速く、目まぐるしく変わるパソコンの世界では常に勉強が必要です。失礼ながらこの歳でついていくのは大変ではないですか?とお聞きすると、「コンピューターは好きだから」と笑っていらっしゃったのが印象的でした。(2017年10月21日)