”おもしろそう!” にチャレンジして働き続ける

先輩インタビュー:0006 転職:コーチングディレクター

久慈 洋子(くじ ようこ)さん

株式会社ウェイクアップ ディレクター

■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。

今は、株式会社ウエイクアップというコーチングの会社で仕事をしています。この会社はコーチ養成機関であるとともに、コーチング・マインドを基盤にした企業の組織変革のサポートにも力を入れています。

私自身は E&I(Exploring & Inspiring)という、いわば、R&D的な役割を担う部門にいて、コーチングをこれからどのような形で世の中に役立てていくかを考えています。
ウエイクアップという会社は自らの組織でいろいろと実験をしていて、今年からすべての仕事を「プロジェクト制」にするという取組を始めました。いわゆるホラクラシー経営(*注)ですね。ほとんどのメンバーは有期雇用で、定年は定めていません。

注:ホラクラシー経営とは従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に相対する新しい組織形態を示す概念で、階級や上司・部下などのヒエラルキーがいっさい存在しない、真にフラットな組織管理体制を表します。ホラクラシーの下では、意思決定機能が組織全体に拡張・分散され、組織を構成する個人には役職ではなく、各チームでの役割が与えられます。細分化されたチームに、それぞれ最適な意思決定・実行を行わせることで、組織を自律的・自走的に統治していくシステムです。 (“日本の人事部”より)

■ 退職前はどんな仕事をされていましたか?

人材開発コンサルティングのグローバル企業で働いていました。そこでは企業の人材育成戦略の企画やプログラム開発などをしていました。その会社は男女差別もなく、44歳で役員になったのですが、毎日遅くまで働いていましたね。息子が3人いたのですが・・・

コーチングが日本に入ってきた最初のころに学ぶきっかけがあり大変心惹かれましたが、コーチ資格をとるには忙しすぎて時間がなく、プロコーチ資格を取ったのはその会社を辞めてからでした。

■ 仕事を辞めたのはいつですか?

55歳の時です。仕事で企業のリーダー育成の取組に関わることが多かったのですが、優秀な女性がたくさんいるのにリーダーとして活躍する女性が少ないことを、とても残念に思っていました。

そのころ、Diversityを推進するNPO法人にご縁を頂いて、そこに移る決断をしました。そのNPO法人には、多くの大企業が会員として参加しておられたので、企業がDiversity、女性活躍をどのように推進していくのかをつぶさに見る機会をいただきました。

■安定した収入を捨てた理由は?

NPO法人に移ったときは年収は半減しました。が、やりたいことをしたいという思いの方が強かったのと、ちょうど下の息子が大学を卒業して収入に縛りがなくなったこともあり、転職を決断しました。
また、時間的に少し楽になったので、この間に念願だったプロコーチ資格を取得することもできました。

■ なぜ、今の道を選んだのでしょうか?

今のコーチングの会社に入ったのは、本当の意味でInclusiveな組織を日本に根づかせるお手伝いを少しでもしたいと思ったからです。

Diversityを推進するNPO法人で仕事をさせて頂いて、日本の企業はDiverseにはなりつつあるけれども、Inclusionとはなにか、どうやったらInclusiveな組織になれるかについては、まだまだ試行錯誤の段階だ、ということが分かりました。

一方、コーチングを学ぶ中で、一人ひとりのリーダー、そして社員がコーチング・マインドを持つことがInclusiveなカルチャーを創ることにつながる、ということに気づいたのです。

一人ひとりの個性と存在価値を認め、安心・安全な場をつくることで、社員がハッピーになり、かつ組織のパフィーマンスが上がる、ということをいろんな企業にお伝えしたいと思って、今の会社に「それをやりましょう!」と、入れてもらいました。

■ セカンドキャリアの準備を始めたのはいつ頃ですか? 考え始めたのはいつ? 

49歳になった時に、初めて自分のキャリアを「引き算」で考えました。つまり、「60歳で定年を迎えるとして、あと10年、どんな仕事をしたいのか」について考えたのです。

それと同時に60歳以降の人生をどう生きるのかということも頭をよぎり始めました。
そのころ自分自身コーチングを(クライアントとして)受けていたのですが、セッションの中でそのテーマが何度か出てきたのを覚えています。

■ これまでに試行錯誤した時はありましたか? 仕事を辞めて感じたことは?

試行錯誤というよりも、おもしろそうなことが目の前に出てきたときにパッとそれをつかんで、チャレンジということを繰り返してきた感じです。

もともとは大学の心理学の研究室にいて、企業に行くことなど考えてもいなかったのに、企業の人材育成の仕事の機会があって「おもしろそう!」。次は、女性がもっと活躍できるようになればいい、と思っていたところに、Diversity推進のNPOからのお話があって「これはぜひやりたい」。そして、「Inclusionには、コーチングだ!」と思って、今の会社に“押しかけ”入社、ですから。

■ 今、抱えている問題は?

特にありませんが、強いて言えば、実家で一人暮らしをしている高齢の母については、やはり心配ですね。

■ 今の生活に満足していますか?

はい。まだ仕事をやらせてもらっていることはとてもありがたいです。自分のペースでやれる範囲ですが。
孫も3人もいますが「おばあちゃん」ではなく、名前で呼ばせていますよ。

■ 後輩にアドバイスするとしたら?

「会社」というところには使えるリソースがたくさんあります。「自分は組織に縛られている」と思うのではなく、会社という舞台を使って、自分がやりたいことをどうプロデュースするか、と考えると、おもしろいのではないでしょうか。

会社を変えるのは社長や役員だけではありません。実際、一人の社員の強い思いが周りを動かし、部門長を動かし、ついには社長にも届いて全社の変革につながった例を身近にいくつも見ています。最初に「強い思い」を持って行動を起こすのは女性である場合が多いんですよ。女性の方が組織においては「こうあらねばならない」という枠から自由でいられるからかもしれません。

■ 今後の展望についてお聞かせください。

これからは、知力・体力がさらに上がっていく、というわけにはいきません。そうすると、できるのは今までの経験知を伝えること、でしょうか。
友人たちと TeamWIZUというグループを作って、自分たちが学んできた知恵を次の世代に伝え、また自分たち自身も好奇心をもって面白そうなことにトライする活動をやっています。
また、「癒し」もこれからのキーワードで、そのために気功をつかったヒーリングも学んでいます。

■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?なぜ、働いているのでしょうか?

「働くこと」は「生きること」だと思っています。

今の会社の代表がよく言う言葉ですが、「はたらく、とは、“はた(傍)”を“らく(楽)”にすること」。対価としてのお金はもちろん大切ですが、働くことの目的は「誰かのために、何かをすること」だと思っています。それが、自分にとっての喜びでもあります。

その意味では、一生、働いていたいですね。

株式会社ウエイクアップのWebサイトはこちら
http://wakeup-group.com/

■ 編集後記

研修や企業コンサルタントを通して企業とそこで働く人たちをずっと支え続けてきた自信がみなぎっていました。その思いは定年を過ぎてもやりたいことを追い求めて転職を続け、現在に至っています。そのエネルギーはどこから来るのだろうかと考えましたが、それは自分のためではなく、人のためにやっているからその感謝や成長を見ることがやりがいにつながっているのだと思いました。
専門用語も飛び交い、解説もして頂きながらのインタビューでしたが、企業においてはマインドやパッションが不可欠と言い切るプロフェッショナルな信念が印象的でした。(2018年4月12日)