70代でもフルタイム 働くことは自然なこと

二見さん

先輩インタビュー:0015 転職:キャリア・コンサルタント

二見 忍(ふたみ しのぶ)さん

大田区 生活福祉課 就労専門相談員

■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。 

大田区の生活保護受給者に対する就労支援の仕事を非常勤でしています。健康に問題がないけれど、なかなか仕事を見つけることができない方たちの支援です。初回の面談でお話を伺ってどういうプログラムがいいのかを検討し、求人情報の提供や履歴書の添削等の就労支援の他に、就労後の定着支援もしています。

非常勤ですが、週に4日、朝8時30分から17時15分までフルタイムの勤務です。
新型コロナウィルスの影響で在宅勤務も少しやってみましたが、オンラインの環境がない方も多いので、電話での聞き取りなどもありますが、やはり面と向かってでないと難しい。1時間以上かけて事務所に通っています。

■ 前職ではどんな仕事をされていましたか?

最初は都市銀行に就職しましたが、結婚退職でいったん専業主婦になりました。30代になって、その頃まだあまり社会に浸透していない派遣会社の代表の下で働く機会があり、再就職しました。

「派遣」という新しい分野で急成長の会社で、やりがいもありとても面白かったのですが、39歳の時に出産を迎え、高齢出産で他にロールモデルもなく保育園も無理だったので、ジタバタせずに退職しました。

再び家庭に戻りましたがずっと仕事はしたかったので、子供が小学校に入ったのを機にPTA活動もできる自宅近くで仕事を探しました。金融のスキルが活かせればいいかなと思っていたところ、小さな土木会社で財務や経理の仕事が見つかり、45歳で再就職しました。そこでは銀行との交渉なども任され、61歳まで勤めました。

■ 前職を辞めたのはいつですか?

61歳で辞めました。会社の状況が悪くなってきて、財務担当として人員整理が必要だと会社に提案したのですが、ならまず自分からと手をあげました。

■ 定期収入がなくなる不安はありませんでしたか?

定年扱いで辞めたのですが、残ろうと思えば残ることはできました。ただ、何か残りの人生、次のステップに進みたい、やりたいことに挑戦したいなと思って。退職金も出てある程度のお金もあるので、もういいかなと。

■ なぜ、今の道を選んだのでしょうか? セカンドキャリアを考え、準備を始めたのはいつ頃ですか? 

派遣会社にいたときに、会社が全国展開する中、支店を任されることがあったのですが、自分が採用した人たちに相談を持ちかけられることも多く、カウンセリングの勉強をしないとミスリードしかねないと危機感を持ちました。勉強しなきゃと思いましたが、当時30代で仕事はハードで勉強する時間がなく、不完全燃焼でした。

その後、子育て期間を経て、土木会社にいる時に産業カウンセラーの資格をとりました。 残業がなかったので土曜日に7ヶ月間かけて学校に通いました。ですが資格はとったものの、なかなか活かせるチャンスはありませんでした。

小さな土木会社で、中小企業の労働者に相談システムがなく転職を重ねる人が多い事に気づいたのですが、社長に進言してもなかなか実現できず、なんとか勉強したことを活かしたいと思っていました。

土木会社を辞めた後、資格を活かして産業カウンセラーになろうと思い民間企業の門を叩いたのですが、大学を出ていないことが響いて書類審査で落ちてしまいました。

「大卒」という肩書きが必要でしたが今から4年間かかるのは辛いと思い、あきらめて財務の仕事しかないのかなと神奈川県のシニア向け相談窓口で相談したところ、「あなたは相談業務に向いている。公的機関なら学歴は問わない」と言われ、ある財団法人のシニア向けの就労支援の業務につきました。

ところがこの財団法人が当時の民主党の「仕分け」でなくなってしまい、どうしようかと思っていたら、横浜市が非常勤の職員を募集していることを知りました。ちょうど64歳の時でした。当時、横浜市の非常勤の定年は65歳、2年もないのですが是非にと言っていただいたのでその年の3月末まで横浜市で働き、翌日の4月1日から現在の大田区に移りました。(※東京都は年齢制限なし)

今年の6月で74歳になります。産業カウンセラーの資格は54歳でとりました。大田区の非常勤職員は4回までは面談で1年更新できますが、5年勤務すると一度公募に応募しなければなりません。70歳で他の人と競ってまでここで働いても良いものかと迷いが生まれました。ちょうどそのときキャリアコンサルタントが民間から国家資格になったので、自分に課題を課して、第1回キャリアコンサルタント国家資格に受かったら公募にエントリーしようと決意しました。

試験は新しく覚えることは大変でしたが、産業カウンセラーで勉強したことが7~8割、仕事で実際にやっていたことが2割でしたので、なんとか無事に合格することができ、今に至っています。

■ これまでに試行錯誤や苦労した時はありましたか?  今、抱えている問題などあれば教えてください。

転職を重ねた中で、だめなら変えようと良く言えば柔軟、悪く言えば諦めが早い。自分がロールモデルになるために、もっと諦めずに頑張れば良かったと反省しています。

問題というほどではありませんが、公的機関に入って、民間と違う点、言葉使いや記録の書き方など今でも慣れないところがあります。

現在、通勤に1時間15分かかっているのですが、コロナ渦で一時は電車もガラガラでしたが、今は戻ってきています。(※2020年7月取材時)今のところ体力は大丈夫ですが、やはり年齢的なこともあり、自分がこうなったら辞めようといくつかの基準を設けています。

■ 今の生活に満足していますか?

74歳でも仕事ができていることに多いに満足しています。ずっと雇用される立場でしたので、フリーや個人事業主、あるいは会社経営をしている方に比べて収入が安定していることで経済的なことについて甘いかなと思っています。緊張感が違うだろうなと。もっと自己研鑽が必要かなと。独立してご自分でやられている方達には敬意を表します。私には自分でやる勇気はありません。子会社でトップをやらないかと言われたこともありましたが、自分は2番手でトップを支えるのが向いていると思っています。

■ 後輩にアドバイスするとしたら?

こつこつ続けていくのが大事だと思います。何かを見つけたら続けてみる。
それから、人に話すと風が吹いて流れができていくので、外に向かって発言することも大事です。

理想に向かってまっすぐな道は良いですが、いつもそうできるとは限らない。仕事を続ける気持ちがあれば、その周辺の仕事をやってチャンスを待ち、目標に近づく道を探っていく事も大事です。

失敗はあっても無駄になることは何もない。行動を起こし続けることが大事だと思います。

■ 今後の展望についてお聞かせください。

75歳までは働こうと思っています。もっと続けてと言われるかもしれませんが、引き際が大事かなと思っています。今の区の職員という立場を辞めても、困っている人の相談に乗ることはずっとやっていきたいです。相談を受ける「場所」さえあれば、ボランティアでも良いと思っています。

74歳でフルタイムで働いている姿をみていただき、「働き続けているとああなんだ」「生き生きしていておもしろそう」と後に続く人に思ってもらえるよう、まだまだ頑張りたいと思っています。

■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?
なぜ、働いているのでしょうか?

逆に「なぜ働かないのか」とお聞きしたいです。私自身、働いていない時間は落ち着かなかった。充電期間という人もいますが、母や妻ではなく、個人で「生きている」という実感を得られたのは働いているときでした。

ボランティアは考えていませんでした。働いて収入を得ることで成長できる。今日よりは明日、収入に見合う仕事で働き、納税ができることが大きかったです。できるだけそうありたいと思ってきました。

働くことはごく自然なこと。夫も働いていることで生き生きしているのが私らしいと、勉強のため仕事のために出かけることを応援してくれています。「あまり無理しないでね」と。「その歳でよく頑張っている」と息子も思っているようです。

■ 編集後記

70歳でキャリアコンサルタントの資格を取られたとお聞きして、いつか詳しくお話を伺いたいと思っていました。始めてお会いしたときから大きな包容力で包み込んでくださるような温かなお人柄を感じていましたが、お話をお聞きして、多くの方たちが二見さんに話を聞いてもらって救われてきたのだろうと思います。一方で、自分には厳しい方。年齢に甘えない姿は、歳を重ねてもこうありたいなと目標にしたい先輩のひとりです。80歳になったとき、90歳になったとき、どんなことをされているのかが楽しみです。その分、私も二見さんに恥ずかしくない生き方をしなければと思わせていただきました。(2020年7月22日)