めざすゴールはハッピーになること!
先輩インタビュー:0012 起業:アーティスト
Rosemarie Forsythe(ローズマリー・フォーサイス)さん
アーティスト
今回は海外の事例として米国人女性の先輩を取り上げます。米国ワシントンDCの郊外に暮らすローズマリー・フォーサイスさんです。現在、アーティストとして活躍されているローズマリーさんの作品は「イルミネーション」と呼ばれるスタイルで、アクリルや金箔などの様々な素材を使用し数学や物理方程式、アルゴリズムなどの要素や記号を用いた不思議な魅力を持っていて、米国のみならず英国、フランス、スイス、カタールなどの個人コレクターから高く評価されています。
■ 今のお仕事に就く前はどんな仕事をされていましたか?
私のキャリアの最初はシンクタンクのリサーチャーでした。
安全保障について権威のあるシンクタンクで、79年から87年までの8年間、ソ連(現在のロシア)の人口動向(デモグラフィック)などについて調査していました。その後、主にソ連を専門とする外交官になりました。もともと外交問題には興味があり、当時、米国の外交にとって一番重要な国だったソ連を選びました。
ソ連は1991年に崩壊したのですが、ソ連に進出したい西側の民間企業にとってソ連という国はベールに包まれていたため事情に詳しい人をどこも探している状況で、そのうちのひとつであるエクソン・モービル(当時はモービル石油)から声がかかり、外交官を辞めてそちらに転職しました。正直言ってそれまで民間に行くとは夢にも思ってなく、しかも石油業界は男社会でマイノリティーである女性にとってはあまり良いイメージがなかったのですが、幸い、行ってみたらとても良い会社でした。エクソン・モービルには17年間勤めましたが、その間、バイスプレジデントという要職にも就きました。
■ 仕事を辞めたのはいつですか?
年金がもらえる年齢になったので辞めることにしました。65歳までは勤めることができましたが、他のことをしたいと思ったのです。幸い年金もかなりの額をもらえるので辞めることにしました。年金が私を自由にしてくれました(笑)
■ なぜ、今の道を選んだのでしょうか?
エクソン・モービルを退職したときはアーティストになるとは考えてもいませんでした。ただ何かこれまでとは違うことをしたいと思っていました。今の道を選ぶにあたって多くの人にインタビューし、どうしたらハッピーライフを得られるのかリサーチしたのです。本も50冊以上読みました。そういったリサーチで調べ上げた資料から自分のためのDo & Don’ts (『するべきこと』と『してはいけないこと』)のリストを作り、それをExcelシートで整理して解を出すというやり方で分析し、自分にとって何が一番幸せな道なのか考えた結果、アーティストになることを決めました。
「幸せ」は経済の一分野でもあり、シンクタンクでも研究調査の対象になっているんです。私はこれまでデータを基に様々なことを判断してきたので、退職後のこともデータに基づいて決めました。アートの世界に進むのが自分にとって一番幸せなのだと確信したのです。
アートのスタイルも自分のことを考えて決めました。これまで、リサーチャーとして、外交官として、そしてエクソン・モービルの上級幹部として数多くの国を訪れた経験から、インカやロシアのアイコン、インドの曼陀羅などにインスパイア―され、知性的な要素も取り入れたいと思いました。このスタイルを見つけるのに1年ぐらいかかりました。もともと学校でもそういう勉強をしたかったし企業で働いている時には、化学者や数学者とのお付き合いもあり、そういった分野の勉強もしました。
アインシュタインや、クアンタムレベルの異次元というか別次元の世界に興味があります。方程式を考えた人にも興味があるのですが、たとえばアニメーションとか別の道具で方程式を表現できないかと考えました。アーティストとして面白い試みだと思っています。
そういう要素が私をとても幸せな気持ちにさせてくれるのですが、これは私にとってはエキサイティングでとても重要なことです。
■ これまでに試行錯誤や苦労した時はありましたか? 今、抱えている問題などあれば教えてください。
別の道に進むことはとってもエキサイティングで、あまり苦労と思いませんでした。アートの道は私にとってはセカンドキャリアというより、4thキャリアですが(笑)、外交官から民間に行くときも、それまでの政府や安全保障の問題をまったく違う視点で見ることができましたし、新しいことを始めるのは知的興奮を覚えます。
私は何にでも興味があって全然違う分野にも興味があり、政治もビジネスも、そしてアートも経験できてラッキーでした。でも、皆がそう考えるわけではないですね。
■ これまでは、ローズマリーさん自身のことをお聞きしましたが、ローズマリーさんが考える米国の女性たちのキャリアについて、どのようにお考えになっているのか教えてください。
新しい世代の人達は私たちと違って次から次へと仕事を変えていくのが気になります。現在、多くの若い人のメンターになっていますが、あまりにも変わりすぎると感じています。特に若い時はある程度ひとつの仕事で頑張ることも大事です。良い時も悪い時もあるけれど、若いときはそれを学ぶことも必要です。
■若い人だけでなく、米国の働くシニア女性についてはいかがでしょうか? 日本では以前は定年まで働く女性は少なく、近年少しずつ増えてきています。また、米国人は「Happy Retirement」と言う言葉に象徴されるように早期にリタイアするのを楽しみにしているというイメージがあるのですが・・・
私の母は1960年代にビジネスの世界で管理職をしていました。当時の米国でも、とても稀なケースでした。自分の仕事を選べなく、景気の状況によっては会社を変えなければならないケースも多かったと思います。
米国人の理想は「Happy Retirement」だと思うのですが、今は多くの人が歳を重ねても働き続けています。残念ながら、年金が少なくなってきたので経済的な理由からでしょう。一般的には60歳でリタイアですが、リタイアしてもやることはたくさんあります。私の友人たちは引退後、いろいろなことをして幸せそうです。
インターネットのおかげで世界が広がり、やりたいことができます。満足するには個々人で違うので、一概には言えませんが、両親の時代に比べれば、様々なところに手軽に旅行に行くこともできますしね。
外交官の世界でもひとつ前の世代は結婚したら辞めなければならなかったですから、時代とともに変わっています。
NPO の理事になる人も多くいます。企業で高いレベルのキャリアを築いた女性が NPOなどをサポートするケースも多く、Civic Duty(市民の責任) という考え方があります。
■ローズマリーさんはアーティストになられましたが、アートは趣味ではなく “プロフェッショナル”ですよね。定年後に新しいビジネスを始めるのは、米国では珍しいことではないのでしょうか?
私は“趣味”は嫌いです(笑) 何かやるのなら、徹底的にプロフェッショナルとして取り組みたいですから。
私は特別なのかもしれませんね。定年後に新しいビジネスを始めることは、米国は他国に比べたら容易かもしれませんが、それでもやはり厳しいことに変わり有りません。自分で始めるのにはいろいろ勉強が必要です。これまで大きな企業の中でビジネスをしてきましたが、小さなビジネスでもいろいろ考えることがあります。
■ 後輩にアドバイスするとしたら?
Don’t be afraid future! (未来を恐れないで!)と言いたいですね。
定年後はとてもエキサイティングです。
定年後は自由(Freedom)を手に入れることができます。年金をもらって経済的に自由になって、ストレスもなく、やりたいことができる、自分で自分の道を見つけることができるのです。人生で一番楽しい時かもしれません。
■ 今後の展望についてお聞かせください。
ビジネスプランはいろいろありますが(笑)、私のめざすゴールはハッピーになること!
ブランドをもっと広める、ということもあるけれど、人生をエンジョイしていきたいです。
ローズマリーさんのギャラリーWebサイトはこちら
http://www.restonartgallery.com/artists/rose.html
■ 編集後記
第一印象は、大企業の上級幹部という威圧感は微塵も感じさせない、とてもチャーミングな方でした。
「データオリエンテッドなので、データがなく一般論を語るのは難しいのですが・・」と、インタビューの中で何度もおっしゃっていて、ご自分の将来もデータを基に決めたと伺い、どんな手法で分析するのか、もっと詳しくお聞きすれば良かったと思います。
VIP時代の、ファーストクラスの移動とドライバー付きのリムジンごとエレベーターで行き先のフロアまで上がるという映画のような生活からアートの道に進むにあたって、自分がいかに幸せになれるのかを2年間かけて徹底的に分析したと、ケラケラ笑っていらしたのがとても印象的でした。
いつもはインタビューの際に「今の生活に満足していますか?」とお聞きするのですが、そんな質問は愚問のように、言葉の端々から今の生活を楽しんでいらっしゃる様子が伺えました。人生楽しくて仕方がないという感じで、まさに人生をエンジョイされている先輩でした。(2019年9月13日)