泥臭さも私の強み──定年を迎えて気づいた“自分らしい働き方”

井上さん

先輩インタビュー:0020 継続雇用:電機メーカーのIT部門でDX化推進

井上 佳子(いのうえ よしこ)さん

NextStoryセカンドキャリア研修第8期受講生

■ 今は何をしてらっしゃいますか? 現在のお仕事を教えてください。 

 現在は、電気メーカーのIT部門でマーケティングのDX化を推進する仕事をしています。2023年に定年を迎えましたが、再雇用という形でフルタイム勤務を続けています。平日は東京で働き、週末は京都の自宅に戻るという二拠点生活も11年目になりました。 加えて、キャリアコンサルタントやキャリア教育コーディネーターとしての活動もしています。高校で探求学習の授業を担当したり、全国高校生マイプロジェクトアワードの運営に関わったりと、少しずつではありますが若い世代と関わる機会が増えてきました。これまで会社中心の人生でしたが、今は「自分にできることを少しずつ広げていこう」と思いながら過ごしています。

キャリア教育コーディネーターとして高校で探求学習の授業を担当
高校で探求学習の授業を担当

■ 前職ではどんなお仕事をされていましたか?

 大学を卒業後、今の会社に入社しました。最初の配属は本社の情報システム部門で、システムエンジニアとしてキャリアを歩み始めました。一時期、秘書室で役員秘書を経験しましたが、ほとんどはITの現場で全社プロジェクトを推進、2~3年ごとに新たなプロジェクトを担当しました。現場との人間関係を作ることから始まり、現場の業務を学び、課題を探り、解決策を導きだす仕事は、しんどかったけれどその分多くを学び、結果として自分の強みを育ててくれたと思います。

■ 前職を辞めたのはいつですか?

 2023年に定年退職をしました。定年退職して再雇用になる場合、退職時の職場で継続するのが基本ですが、50歳を過ぎて経験した大きな事業再編が理由で職場を変わりたい思いが強く、退職直前に担当していたIT部門の上司や同僚に協力いただいて、やりたい仕事をやりやすい環境に異動して継続勤務することができました。

■ セカンドキャリアを考え始めたきっかけは? なぜ、今の道を選んだのでしょうか? 

 58歳のとき、コロナ禍で自分の時間が少しできたことがきっかけでした。それまで、いろいろなITプロジェクトをやってきて、会社や組織としての役立ちや成果は出してきたつもりでしたが、これからは直接『人に役に立つ』ことをしたいと思い、キャリアコンサルタントの資格取得に挑戦し、翌年合格しました。
 その後キャリア教育コーディネーター養成講座で7か月間学びました。そこで中、高校生のキャリア教育に関わりたいという思いが芽生え、今の活動につながっています。ただ、キャリア教育コーディネーターの資格がとれたのが23年8月で、10月末で定年退職。
そのタイミングでキャリア教育の仕事に専念するのは準備期間もなく自信が持てなかったので、継続雇用で仕事をしながら徐々にキャリア教育コーディネーターとしての活動の時間を増やしていこうと考えました。

■ 定年退職を迎えた時のお気持ちは?

 2023年に定年を迎えて、不思議と気持ちが軽くなりました。
それまで「人以上に努力しなければ人並みにできない」と思い込み、自分を追い込みがちでしたが、退職の節目に上司や同僚、後輩たちから感謝や労いの言葉をいただき、私にも人に認めてもらえる部分があると素直に感じられたのです。
 さらに、ある方から「井上さんは泥臭いことをコツコツ続けられる人ですよね」と言われた時、「そういえば私はずっとそんな役割、そんな働き方をずっとしてきたな。そしてそれはとても面白かった。」と腑に落ちました。華やかさはないけれど、地道に積み重ねることも強みなのだと気づけたのは、私にとって大きな転機でした。

■ 不安や迷いはありませんでしたか?

 経済的な心配は大きくはありませんでしたが、「自分にできることは本当にあるのだろうか」と不安に思うことはありました。
NextStoryの研修でも、最初は周りの女性たちがとてもパワフルで圧倒され、自分に自信を持てずにいた時期もありましたが、いろいろ話をする中で、皆それぞれに悩んだり考えたりしながら自分のこれからを考えていることを知り、互いに応援しあえる仲間ができたことで心強く感じました。
 また、定年を機に「比べなくてもいい、自分らしくやればいい、無いものねだりはやめて自分が持っているものを大切にしよう」と
思えるようになりました。今は、声をかけてもらったらできる限り応えることで人との接点をどんどん広がっており、それが自分らしさかなと感じています。

■ 今の生活に満足されていますか?

 とても楽しく過ごしています。今は「東京だからこそできること」を意識して楽しむようにしています。

ビーチバレー

 例えば、神宮球場でのプロ野球観戦や秩父宮ラグビー場での試合観戦。もともとバレーボールをしていたこともあり、スポーツ観戦は大好きです。会社帰りにビールを飲みながら大声を出して応援するのは、とても心地ちよく、贅沢な気持ちになります。

 
 他にも、皇居の一般参賀に行ったり、会社帰りの「銭湯→ビールツアー」も銭湯の多い東京ならではの楽しみ方です。
年齢制限のあることも、今のうちにやっておかねば!と思い、絶叫マシンが多くある遊園地に行き、制限範囲のアトラクションを全制覇しました。大声で叫んで笑った楽しい思い出です。

 また東京は学びの場や機会も多いので、毎年学びのテーマを決めて挑戦しています。 

 一方で京都では、父や家族との時間を大切にしています。3兄弟がそれぞれ自分のできることで父に喜んでもらうことが自然と共通目標になっていて、家族の信頼関係が作れていることも心穏やかでいられる原点です。

 また、20代の頃から続けていて、転勤で中断していた着物着付やお茶(小川流煎茶)も少しずつ再開し、東京と京都、それぞれに楽しみがあり、その両方を味わえる二拠点生活を今は楽しんでいます。

小川流煎茶

■ 後輩にアドバイスするとしたら? 

 自分の現状整理(自己分析・お金・ありたい自分への想いなど)をやっておくことは次を考える土台になります。焦ってやるのではなく、少しずつ楽しみながら自分と向き合う時間を作るとよいと思います。自分一人で考えるだけでなく、いつもと少し違う世界を経験したり、異なる環境の人と対話することを通じて見えてくること、気づくことが多くあります。

 一歩踏み出してみることで、よりよいセカンドキャリアを描くことができると思います。

■ 今後の展望についてお聞かせください。

 直接的なキャリア教育とは異なるかもしれませんが、若い人たちに「健康と食の大切さ」を伝える活動をしたいと思っています。
生きていくためには、まず健康であることが大切です。学生と接点が増える中で、彼らを取り巻く環境に心身ともの健康を阻害する要素が私たちの生きてきた時代以上に多くあることに気づきました。身体は食べ物でできていると言われ、正しい食習慣を若いうちに身につけることは生きていくためにとても大切なことで、学生が自分の身体や生活を自ら考え実践するきっかけを作っていきたいと思います。

 将来的には京都に拠点を戻し、地域の人たちとつながりながら活動を続けていければと考えています。

■ 最後に、働くということは貴女にとってどういう意味を持っていますか?
なぜ、働いているのでしょうか?

 私にとって働くことは「社会と接点を持つこと」であり「役立ちの証」だと思っています。健康で細く長くでいいので、働き続けて社会とつながっていたい。生涯現役と言われる人生になれば最高です。

■ 編集後記

 謙虚で自分を強く主張することのない井上さんですが、おだやかで、それでいて芯の強さを感じさせるのは、お話の中にあった「人と比べるのではなく自分らしくやればいい」、「自分が持っているものを大切に」というところからくるのだと思います。この言葉はセカンドキャリアを考える人だけでなく、すべての人に伝えたい言葉であり、私自身もあらためてもう一度自分に言い聞かせました。

(2025年9月12日オンラインにて)

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