身近に潜む難聴リスク

イヤホン

■難聴という疾患をご存知ですか?

 私の亡き祖母は耳が遠く、彼女と話をする時はいつも大きな声でないと意思疎通が図れませんでした。その為、私は、難聴は加齢に伴う疾患だと思い込んでいました。

 2050年までに世界の25億人以上が聴覚に何らかの問題を有し、10人に1人が補助や治療が必要になるという報告が、2021年3月にWHOから出されました。しかし、これは高齢化が進んでいることだけが原因ではなかったのです。

■ 若者や中高年が患う難聴

 スマートフォンや音楽プレイヤーで大音量の音楽を聴き続けることや、騒音下での生活や就業等が原因で「騒音性難聴」を患う若者が増えており、その予備軍は世界の12~35歳の約11億人という報告が、2019年にWHOから出されました。

 次に、原因が不明なことが多い「突発性難聴」。これは、突然片方もしくは両方の聴覚が失われる疾患です。ミュージシャンや米国大統領などがこの病気を発症し、ニュースにもなっていたのでご存知の方もいるのではないでしょうか。こちらは40~60代の中高年の方の発症率が高いのです。

 さらに、特定の医薬品投与および長期の薬剤服用が原因の「薬剤性難聴」という難聴があります。

■ 難聴の治療

 大音量で音楽を長時間聴いたり、騒音下での業務となる職種の方、持病で薬を長期飲み続けている方、ストレスの多い方・・・、老いも若きも難聴になるリスクがあるのなら、どのような治療薬があるのでしょうか。

 答えは「まだない」なのです。

 耳鼻科で処方されているビタミンB12やステロイドは対処療法であって、難聴に対する治療薬は現時点存在していないのです(2021年4月現在)。

 補聴器の性能が高いから、高い開発費をかけてまで治療薬を開発する必要がないのではと思われた方もいらっしゃると思いますが、日本での補聴器の装着率は13.5%と、欧米諸国の30~40%よりもかなり低いのです(JapanTrak2018より)。
補聴器購入に国から補助がどれ位出るかという違いがあり、単純な比較はできませんが、私が驚いたのは、その非装着理由の第一位と第二位が、「煩わしい」「元のように聞こえない」であることです。

オーダーメイドの補聴器が30万円くらいで手に入るのですが、調整に時間がかかります。補聴器は医療機器であり、その耐用期間は5年です。それで元のように聞こえないとか面倒というのでは、私なら購入を躊躇してしまいます。

■ 難聴にならない方法の模索

 でも、人間が生来持つ聴覚器は非常に高機能で、「元のように聞こえない」のは、人間の技術がまだ追いついていないという証明なのだと私は考えています。人間の持つ聴覚器の性能の素晴らしさとそれを長く維持する方法について理解を深めることで、騒音性・薬剤性・突発性の難聴を防ぎ、いずれはやってくる老人性(加齢性)難聴を遅らせることもできるかもしれません。

 騒音性難聴の予防策ですが、まずは大音量で音楽を聴かないこと。聴いた場合は、その後に長めの耳の休息タイムを取ることです。また、気が付かない間に音量を上げてしまうことがないように、例えば、イヤホンは遮音性が高いものを使うとか、スマートフォンの設定で一定の音量以下で音楽を聴くというような方法もあります。

 突発性難聴に対しては、急に片方もしくは両方の耳が聞こえなくなった、ゴォッというような音が響くおよび低音だけが聞こえないという症状が出た場合は、即座に耳鼻科に行って下さい。この難聴は時間との勝負になります。ここで、仕事が忙しいからと放置すると、聴力が回復する確率が激減してしまいます。

 薬剤性難聴については、ご自分の使用されている薬の添付文書を見てみて下さい。聴覚毒性が広く認識されている薬剤については、その記載があります。しかし、残念なことにほとんどの薬は聴覚毒性のデータが取られていないか、公に報告されていません。ここは、国の機関と製薬会社にお願いするしかありません。 

最後に、中高年時の難聴は認知症になるリスク要因としては、喫煙や肥満などよりずっと高いという報告があります。難聴予防は、認知症患者の低減にも役立つとも言われています。

出典 
・Dementia prevention, intervention, and care: 2020 (2017) report of the Lancet Commission
・WHO News release (12 February 2019)(2 March 2021), Newsroom (1 April 2021)
・日本補聴器工業会 Japan Trak 2018調査報告
・American Journal of Epidemiology 2012 Vol.176 No.6 544-554

筆者紹介:

みみねこ

猫と暮らすバイオ系企業の研究者。分子生物学専攻 生命科学博士。 
怪我と病気で利き腕と目に障害を負ってから、「無理は禁物」と唱えながら、加齢性疾患予防と猫の健康維持を中心に調査・研究をしています。